「映画は監督の物」と言われるように、映画制作において監督の存在は非常に重要だ。映画をどう仕上げるかは監督の手腕にかかっている。そんな今年を代表する監督5名は下記の通り。
スティーブン・スピルバーグ 『フェイブルマンズ』(2年連続9回目)
ダン・クワン ダニエル・シャイナート 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(初ノミネート)
トッド・フィールド 『TAR ター』(初ノミネート)
マーティン・マクドノー 『イニシェリン島の精霊』(初ノミネート)
リューベン・オストルンド 『逆転のトライアングル』(初ノミネート)
スピルバーグが2年連続の候補入りで、彼のみがこの部門のノミネート経験者であり、受賞経験者。それ以外は全員が初ノミネートだ。続いては過去5年間の監督賞受賞者。下記の5名だ。
第94回 ジェーン・カンピオン 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
第93回 クロエ・ジャオ 『ノマドランド』
第92回 ポン・ジュノ 『パラサイト 半地下の家族』
第91回 アルフォンソ・キュアロン 『ROMA ローマ』
第90回 ギレルモ・デル・トロ 『シェイプ・オブ・ウォーター』
5人中3人が作品賞受賞作品、5人中2人が外国語映画作品、5人中2人が女性監督、そして5人中0人がアメリカ人だ。ある意味で、近年ハリウッドが掲げる「多様性」が最も反映されている部門かも知れない。ちなみにだが、対象を過去10年間に広げてもアメリカ人の受賞は『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルただ一人だ。何だかんだでアカデミー賞はアメリカの映画賞。アメリカ人監督の受賞が少ないのは、多様性という意味では良いことだが、少し寂しい。
批評家賞はダン・クワンとダニエル・シャイナートがほぼ独走状態だった。大都市の批評家賞の勝利は思いのほか少なかったが、何と言ってもブロードキャスト映画批評家協会賞とアメリカ監督組合賞の勝利は大きい。そして対象作は2022年最も人気の映画であり、最もオスカーに近い『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』である。作品の独創性も高く評価されており、当然ながらこの部門のフロントランナー。アカデミー賞らしくない作品であることは間違いないが、それも気にならない程の勢いだ。ちなみにアメリカ人だ。
当初この部門はスティーブン・スピルバーグが受賞するのではと言われていた。もう70歳後半なのに相変わらず映画制作のペースが衰えない。そして対象作『フェイブルマンズ』はスピルバーグの幼少期から青年期の記憶を色濃く反映した、まさにスピルバーグの自伝映画とも言える作品なのだ。ゴールデン・グローブ賞を受賞するまでは良かったが、スピルバーグの勢いはこのゴールデン・グローブ賞がピークだった気がする。
対象作が強力なマーティン・マクドノーは現状三番手。本来であれば『スリービルボード』で候補入りすべき監督だった。彼の初ノミネートは嬉しいが今回はノーチャンスか。それはトッド・フィールドも同じだ。『リトル・チルドレン』以来、本当に久々の監督作品は大きな評価を集めた。かなりの名匠というイメージだが、実は監督作品は『イン・ザ・ベッドルーム』と『リトル・チルドレン』、そして本作の3本のみ。
サプライズで候補入りしたリューベン・オストルンドもさすがに厳しいか。監督作品が2本連続でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞するという快挙を果たし、まさかの候補入り。ヨーロッパ映画ならではのブラックユーモアは、確かに観ていて思わず笑ってしまうほどだ。今後の活躍に期待だ。
圧倒的な人気作品『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の監督コンビが受賞する可能性が高いだろう。さぁ、どうなる。
受賞予想→ダン・クワン、ダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
個人的希望→トッド・フィールド 『TAR ター』