実に珍しい出来事で、主演男優賞のノミネート5名が全員初の候補入りという事態になった。中々に稀に見ることだが、そんな5名は下記の通り。
オースティン・バトラー 『エルヴィス』(初ノミネート)
ブレンダン・フレイザー 『ザ・ホエール』(初ノミネート)
コリン・ファレル 『イニシェリン島の精霊』(初ノミネート)
ポール・メスカル 『aftersun アフターサン』(初ノミネート)
ビル・ナイ 『生きる LIVING』(初ノミネート)
冒頭にも述べたが全員が初ノミネートだ。若手からベテランまで、年齢層的には割とバランスよく入っている印象だ。ちなみに第92回以来、候補者全員が白人となっている。続いて過去5年間の受賞者は下記の通り。
第94回 ウィル・スミス 『ドリームプラン』
第93回 アンソニー・ホプキンス 『ファーザー』
第92回 ホアキン・フェニックス 『ジョーカー』
第91回 ラミ・マレック 『ボヘミアン・ラプソディ』
第90回 ゲイリー・オールドマン 『ウィンストン・チャーチル』
この5人の共通点は対象作が作品賞に候補入りしていることだ。ちなみにこの傾向は第83回以来ずっと続いている。これはこの部門ならではの特徴だ。
では今年はどうなるだろうか。まずは前哨戦の結果を振り返ると大都市を中心とした批評家賞で愛されたのはコリン・ファレルだった。大作映画からインディーズ映画まで、幅広いジャンルで活躍を続けてきた彼が遂に掴んだ初のノミネート。アイルランドの孤島で暮らし、親友に突然絶交を告げられた男を演じて、熱い支持を集めた。ニューヨーク、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞、ボストン、シカゴ、全米映画批評家協会賞、そしてゴールデン・グローブ賞を制した。
そんなゴールデン・グローブ賞のもう一人の勝者はオースティン・バトラーだ。伝説のロック歌手エルヴィス・プレスリーを見事に演じ、こちらも初のノミネートを獲得。賞レースではこのゴールデン・グローブ賞とサテライト賞以外は目立てなかったが、ゴールデン・グローブ賞受賞を機に一気に勢いを加速させてきた。
そしてブロードキャスト映画批評家協会賞とアメリカ映画俳優組合賞で勝利を手にしたのはブレンダン・フレイザーだ。フレイザーの演技は当初から大きな話題になっていたが、賞レースでもコツコツと受賞を重ねていき、見事俳優組合賞を制した。かつては『ハムナプトラ』シリーズや『センター・オブ・ジ・アース』で人気だったが、私生活のトラブルが相次ぎ表舞台から遠ざかっていた。そんな彼が見事にカムバック。監督は『レスラー』でミッキー・ロークを復活させたダーレン・アロノフスキーだ。組合賞を制したことでこの部門のフロントランナーに立ったと言える。
しかし、フレイザーの大きな不安要素は対象作『ザ・ホエール』が作品賞に入っていないことだ。先述の通り、ここ最近のこの部門の勝者は全て対象作が作品賞候補入りしている。最近で言うと重要賞を独占し、受賞最有力と言われたチャドウィック・ボウズマンが受賞を逃したことも記憶に新しい。久々に作品賞候補入り作品以外から主演男優賞が出るのか、今回のオスカーの注目ポイントでもある。
若手のポール・メスカルとベテランのビル・ナイは今回はノーチャンス。ただ前者は『グラディエーター』の続編の主人公に抜擢されており今後が非常に楽しみだし、後者は長年映画界に大きな貢献した俳優で、映画ファンとしても彼の候補入りは非常に嬉しいだろう。
誰が受賞しても初受賞。さぁ、初の栄冠を手にするのは誰になるのか。非常に気になるところだ。
受賞予想→ブレンダン・フレイザー 『ザ・ホエール』
個人的希望→ブレンダンフレイザー 『ザ・ホエール』
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