複数の候補者がしのぎを削るときもあれば、一人が独走するときもある。それはどの部門にも言えることだ。大混戦だった翌年には、一人の女優が圧倒的な勝利を手にすることもある。まずは候補者5人をご紹介。

ケイト・ブランシェット 『TAR ター』(7年ぶり8回目)
ミシェル・ウィリアムズ 『フェイブルマンズ』(6年ぶり5回目)
アンドレア・ライズボロー 『To Leslie』(初ノミネート)
ミシェル・ヨー 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(初ノミネート)
アナ・デ・アルマス 『ブロンド』(初ノミネート)

ノミネート経験者が2人に、初ノミネートが3人という組み合わせ。ちなみにケイト・ブランシェットはこの部門を1度制したことがある。なお彼女は今回の演技部門候補者の中で唯一のオスカー受賞経験者(しかも複数)だ。

主演女優賞はやはりある程度活躍してきた女優が受賞する傾向が強い。過去5年間の受賞者は下記の通りだ。

第94回 ジェシカ・チャステイン 『タミー・フェイの瞳』
第93回 フランシス・マクドーマンド 『ノマドランド』
第92回 レネー・ゼルウィガー 『ジュディ　虹の彼方に』
第91回 オリヴィア・コールマン 『女王陛下のお気に入り』
第90回 フランシス・マクドーマンド 『スリービルボード』

いずれも映画界を代表する女優たちだ。ちなみにオリヴィア・コールマン以外は過去にノミネート歴か受賞歴がある女優。記録を見る範囲を過去10年間に広げても初ノミネート初受賞を果たしたのはブリー・ラーソンとオリヴィア・コールマンの2名のみだ。

そうした傾向と、今年の賞レースの結果を考えるとこの部門はケイト・ブランシェットとミシェル・ヨーの「一騎打ち」と見ていいだろう。

当初受賞間違いなしと言われていたのはケイト・ブランシェットだ。これまでに『アビエイター』で助演女優賞を、『ブルージャスミン』で主演女優賞を受賞している彼女は、トッド・フィールドの映画でドイツの首席指揮者であるタイトルロールを演じて激賞を集めた。ヴェネツィア国際映画祭の女優賞を始め、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、全米映画批評家協会賞を制し、ゴールデン・グローブ賞とブロードキャスト映画批評家協会賞を受賞。このまま賞レースを快走するかに思えた。

しかし、ここに来て一気にブランシェットに追いつき、追い抜こうとしているのがミシェル・ヨーだ。『グリーン・デスティニー』、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』でブレイクし、最近も『シャン・チー』に出演するなど国際的に活躍する女優は、今年一番の人気映画で主演を務め、見事に初のノミネートを獲得した。ブロードキャスト映画批評家協会賞は落としたものの、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞、サテライト賞、ボストン、ラスヴェガス、そしてゴールデン・グローブ賞を制した。

そして先日発表されたアメリカ映画俳優組合賞。受賞したのはミシェル・ヨーだった。しかも『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』はアンサンブル賞まで受賞する圧勝ぶりだ。近年の多様性の傾向もあって、流れはミシェル・ヨーに来ていると言っても良いだろう。

それでも不安要素が無いわけではない。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』はやはりアカデミー賞向きの作品では無いし、それを差し引いたとしてもぶっちぎりでこの部門を制するほどの勢いは、ミシェル・ヨーには無い。ブランシェットとの差は本当に僅かなものだ。またブランシェットは既にオスカーを2回制しているが、「もう2回受賞しているから」と「ブランシェットがまだ2回しか受賞していないのか」という、どちらの心理が投票者に働くかによっても、受賞の行方は変わってくるだろう。

ミシェル・ウィリアムズは今回はノーチャンス。彼女を助演にプッシュしなかった映画会社のミスだ。アナ・デ・アルマスは何と言っても対象作の評価が悪すぎる。ラジー賞に8部門も候補入りしてしまった。それでもノミネートできたのは、やはり彼女の演じるマリリン・モンローはそれだけ凄かったという証拠だ。

突如として浮上したアンドレア・ライズボローもノーチャンス。彼女の場合はダニエル・デッドワイラーやヴィオラ・デイヴィスとギリギリの戦いだったはずだ。

ちなみにミシェル・ヨーが受賞すればアジア系としては初の主演女優受賞者となる。歴史が変わる日が来るのだろうか、非常に気になるところだ。

受賞予想→ミシェル・ヨー 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

個人的希望→ケイト・ブランシェット 『TAR ター』

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