第93回アカデミー賞授賞式を振り返る②~最後の最後で待っていた衝撃のサプライズを紐解く

★授賞式を盛り上げたのはあの名女優
例年のようなパフォーマンスが無かった今年の授賞式だが、そんな式を盛り上げたのはグレン・クローズだった。授賞式の合間に挟まれた「この曲がオスカーを受賞したか、ノミネートしたか、ノミネートもしていないか」を当てるという余興で彼女が指名された。

この時流れた曲はスパイク・リーがMVを監督した「Da Butt」だったが、彼女は曲を見事に当てただけでなく、ダンスまで披露してくれたのだ。

このダンスに会場は大盛り上がり。すぐ近くにいたダニエル・カルーヤの盛り上がりっぷりが何とも良い。

グレン・クローズはこれまで何度もオスカーに候補入りしながら、未だに受賞に至っていない。今回も受賞は同い年のユン・ヨジョンに譲った。彼女自身悔しい思いもあっただろう。それでも授賞式を大いに盛り上げるエンターテイナーぶり。今回の彼女のダンスで、彼女の評価はまた一段と上がった事だろう。

★最も感動したスピーチは国際長編映画賞で
授賞式の大きな目玉でもあるスピーチだが、今年もたくさんの素晴らしいスピーチが生まれた。フランシス・マクドーマンドのスピーチはやはり素晴らしかったし、ユン・ヨジョンやダニエル・カルーヤのスピーチも見事であったがとりわけ感動的だったのは国際長編映画賞を受賞したトマス・ヴィンターベアのスピーチだった。

実はこの映画の撮影中に彼の娘が交通事故で亡くなったのだ。しかも彼女は映画に出演する予定だったという。想像もできない程の悲しみの中で、それでも映画を撮り、それがオスカーを受賞するという、素晴らしい奇跡。もしかしたら、今回の授賞式の中で一番ドラマティックな瞬間だったかもしれない。スピーチの途中で涙ぐむトマス・ヴィンターベアの姿が印象的だった。

★最後の最後に待っていたまさかの「サプライズ」
今年の授賞式は異例の式で、その最たるものが、例年ならばラストに発表される作品賞の発表を前倒し、主演女優賞、そして主演男優賞をラストに持ってきたことである。

これはあくまで私の推測だが、最後に主演男優賞をチャドウィック・ボウズマンが受賞し、感動的に授賞式を終えようという考えだったのではないだろうか。前哨戦の雰囲気を見ても、多くの人がチャドウィック・ボウズマンの受賞をほぼ「確実」と考えていたし、私自身も発表されるまでそう思っていた。

しかし、主演男優賞受賞者として名前が読み上げられたのは『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスだった。一瞬会場がどよめき、何が起きたのか、会場にいる人はもちろん視聴者の私たちも分からなかった。

確かにホプキンスの演技は素晴らしという評判だったし、2度目の受賞もあり得ると言われていた。それでも前哨戦では目立たなかったし、ボウズマンを追悼する意味でも、誰もが「ボウズマン受賞」を予想していたはずだ。

しかし、一方でこれまでオスカーが積み上げてきたデータやジンクスが的中したことも意味している。現に主演男優賞はここ10年は受賞者は作品賞候補作品の中から出ているし、実は21世紀に入ってから黒人俳優が2人以上候補入りしていない年は、黒人俳優がこの部門を制したことは一度もない。そういう意味ではデータ通り、ジンクス通りと言う結果になったとも言えるわけだ。

ボウズマンが受賞を逃し落胆する声が聞こえるのは、分からなくはない。かといってホプキンスを責めるのはお門違いだ。授賞式の最後に主演男優賞を持ってくるようなことが無ければ、多少衝撃は少なかっただろうし、そもそも授賞式の最後に主演男優賞を持ってくる判断をしたのはホプキンスではなく、アカデミー側である。

ホプキンスは史上最高齢での主演男優賞受賞。『羊たちの沈黙』以来29年ぶり2度目の受賞となった。ちなみに授賞式には出席できなかった彼だが、その後受賞の喜びを投稿すると同時に、ボウズマンを追悼している。

★第94回アカデミー賞に向けて
2020年は色々なことがあった。それは映画界に限った事ではない。もちろんハリウッドではまだ映画館が完全にオープンになったわけではないし、日本でもミニシアターの代表格「アップリンク渋谷」の閉館が決まるなど、暗いニュースも多い。そんな中においても驚きや感動を提供してくれる「アカデミー賞」は映画ファンや、映画業界人にとって欠かせないものだ。

3時間ほどの短い授賞式だったが、この受賞結果を予想するために1年間色んなことを考えてきたし、たくさんの作品のことを知った。知った作品のすべてが候補入りしたわけではないけど、そうやってたくさんの作品を知ることが出来たのは、1映画ファンとしてすごく嬉しいことだ。

さて、ここから第94回アカデミー賞を考える1年間が始まる。今からどんな作品が候補入りするか、誰が受賞するのか、楽しみで仕方がない。
世界にはたくさんの映画賞・映画祭があるが、多くの映画ファンにこんな興奮や好奇心を与えられるのはやはり「アカデミー賞」だけだろう。

また楽しい1年が始まる。

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