映画は監督のものであると言われる。それぐらいこの部門はアカデミー賞においても注目の部門だ。昨年はアジア人監督であるポン・ジュノが歴史上初めて受賞を果たした。今年ノミネートされた5人はこちら。
リー・アイザック・チョン 『ミナリ』(初ノミネート)
エメラルド・フェネル 『プロミシング・ヤング・ウーマン』(初ノミネート)
トマス・ヴィンターベア 『アナザーラウンド』(初ノミネート)
デヴィッド・フィンチャー 『Mank マンク』(10年ぶり3回目)
クロエ・ジャオ 『ノマドランド』(初ノミネート)
デヴィッド・フィンチャー以外は全員が初ノミネートというフレッシュな部門だ。しかも誰が受賞しても初受賞となる。しかもオスカーの歴史上初めて、女性監督が2人ノミネートされた。これは素晴らしい快挙である。
続いて過去5年間の受賞者はこちら。
第92回:ポン・ジュノ 『パラサイト 半地下の家族』
第91回:アルフォンソ・キュアロン 『ROMA/ローマ』
第90回:ギレルモ・デル・トロ 『シェイプ・オブ・ウォーター』
第89回:デイミアン・チャゼル 『ラ・ラ・ランド』
第88回:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ 『レヴェナント:蘇えりし者』
実はここ5年間でアメリカ人の受賞はデイミアン・チャゼルただ一人。しかも3人はメキシコ人監督が受賞している。そして昨年はアジア人であるポン・ジュノが受賞した。実は主要部門の中では最も多様性に溢れた部門と言えるだろう。
最後に監督組合賞の過去5年間の受賞者を振り返ってみよう。
2019年:サム・メンデス 『1917 命をかけた伝令』
2018年:アルフォンソ・キュアロン 『ROMA/ローマ』
2017年:ギレルモ・デル・トロ 『シェイプ・オブ・ウォーター』
2016年:デイミアン・チャゼル 『ラ・ラ・ランド』
2015年:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ 『レヴェナント』
昨年はサム・メンデスが受賞したものの、オスカーを受賞したのはポン・ジュノだった。
監督賞を予想するうえでまず大事なのは対象作が作品賞に入っているかどうかだ。この部門は作品賞と特に結びつきの強い部門だ。そう考えるとどう考えてもトマス・ヴィンターベア『アナザーラウンド』の受賞は、やはりないと見た方が良いだろう。彼の場合は国際長編映画部門は確実に取れるだろうが、やはり外国語映画と言うのは大きなハンデだ。もちろん昨年のポン・ジュノや、一昨年前のアルフォンソ・キュアロンのような例もあるが、彼らの作品は作品賞に候補入りしていた。そう考えると彼の受賞は無いと見ていいだろう。しかし、ここに候補入りした意義は大きい。今後さらに大きく活躍するだろう。
恐らくリー・アイザック・チョン『ミナリ』の恐らくないだろう。確かに作品は素晴らしかった。その作品に勢いもある。彼自身もアジア系であり、オスカーの打ち出す「多様性」を象徴する人物だが、今年受賞するのは彼ではない。
エメラルド・フェネル『プロミシング・ヤング・ウーマン』はどうか。作品自体は決してアカデミー賞向けではないが、それでも彼女の演出が認められての初ノミネート。もともとは女優であったが、これが監督デビュー作品。しかも脚本賞にもノミネート。今後のさらなる活躍が期待される女性監督だ。しかし、今年受賞する「女性監督」は彼女ではない。
デヴィッド・フィンチャー『Mank マンク』はどうだろうか。受賞に相応しい経歴を持っているのは、この5人の中では間違いなく彼だ。作品的に見ても最もアカデミー賞向きであることは疑いようがない。ただ、彼の作品はNetflix作品。ここ数年はオスカーも配信作品に大きな門戸が開かれているし、コロナ禍のこともあるし、十分にチャンスはあるだろう。しかし、今年受賞に相応しい「作品」を手掛けたのは彼ではない。
そう、この部門は今年最も予想が簡単な部門で、受賞するのはクロエ・ジャオ『ノマドランド』でほぼ決まりなのだ。彼女はアメリカ人ではなく、中国人。まだハリウッドでもそこまで実績を積んでいる監督ではないが、フランシス・マクドーマンドに抜擢され、共に作り上げた作品が『ノマドランド』だ。まるでドキュメンタリーのような、それでいてドラマ的にも素晴らしく、映像も素晴らしい。そして賞レースが始まるといよいよ彼女の独走が始まる。小さな批評家賞から、重要3賞という大きな賞まで、彼女が根こそぎ受賞していった。
アカデミー賞がより「多様性」を打ち出すと宣言したこの年。これ以上受賞するに相応しい監督はいない。しかも作品の勢いも留まるところを知らない。彼女の次回作はMCU作品『エターナルズ』。あぁ、凄いなぁ。
女性監督の受賞となればはキャスリン・ビグロー以来11年ぶり、アジア人の受賞となれば昨年のポン・ジュノに続き2年連続。もちろん「アジア人女性」監督としては初めての快挙である。オスカーの歴史が少しずつ変わろうとしている。その瞬間を目撃せよ。
受賞予想:クロエ・ジャオ 『ノマドランド』
個人的希望:エメラルド・フェネル 『プロミシング・ヤング・ウーマン』