アカデミー賞の予想を始めて10年になるが、亡くなった人が候補入りしている年の予想をするのは初めてだ。中々に複雑な想いがあるが、今年5つのイスを勝ち取った5人の俳優はこちら。
リズ・アーメド 『サウンド・オブ・メタル』(初ノミネート)
アンソニー・ホプキンス 『ファーザー』(2年連続6回目)
ゲイリー・オールドマン 『Mank マンク』(3年ぶり3回目)
スティーヴン・ユァン 『ミナリ』(初ノミネート)
チャドウィック・ボウズマン 『マ・レイニーのブラックボトム』(初ノミネート)
ゲイリー・オールドマンとアンソニー・ホプキンスはこの部門の受賞経験がある。そしてそれ以外の候補者は全員が初ノミネートである。
次に過去5年間の受賞者を見てみよう。
第92回:ホアキン・フェニックス 『ジョーカー』
第91回:ラミ・マレック 『ボヘミアン・ラプソディ』
第90回:ゲイリー・オールドマン 『ウィンストン・チャーチル』
第89回:ケイシー・アフレック 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
第88回:レオナルド・ディカプリオ 『レヴェナント 蘇えりし者』
ここ5年間の候補者全員に共通しているのは、全員が対象作が作品賞に候補入りしているという事だ。これはここ10年の結果を見ても同じことである。そしてこれは主演男優賞の特に大きな特徴と言えるだろう。
続いては重要3賞の中で最も重要な組合賞の過去5年間の結果を見てみよう。
2019年:ホアキン・フェニックス 『ジョーカー』
2018年:ラミ・マレック 『ボヘミアン・ラプソディ』
2017年:ゲイリー・オールドマン 『ウィンストン・チャーチル』
2016年:デンゼル・ワシントン 『フェンス』
2015年:レオナルド・ディカプリオ 『レヴェナント 蘇えりし者』
概ね受賞者と合致している。組合賞においても、オスカーの結果においても共通しているのは受賞者の作品は作品賞に入っているという事だ。それぐらいこの部門は作品賞との結びつきが他の部門よりも強いと言える。
それを踏まえて考えていきたいところだが、今年は少々事情が異なる。前哨戦の重要3賞をコンプリートしたのは、作品賞に候補入りしなかった作品から出た。しかし、彼は前哨戦でも勝利を着実に積み重ね、数多くの絶賛を集めた。そしてその男はもうこの世にはいない。チャドウィック・ボウズマン『マ・レイニーのブラックボトム』のことである。
昨年8月に突如その訃報が伝えられ、世界中が涙した。それでも『ザ・ファイブ・ブラッズ』の演技がまずは絶賛され、そしてこの『マ・レイニーのブラックボトム』での演技が絶賛に次ぐ大絶賛。この時点で多くの人が彼の主演男優賞受賞は確実としていた。それを示す通り、重要3賞も全てコンプリート。ただし、肝心の対象作は作品賞候補入り確実と言われながら落選してしまった。
とは言え今回ばかりはそれは気にしなくて良いかもしれない。そんなことを気にさせないぐらい彼の演技は素晴らしかったのだから。それに、彼がオスカーでノミネートを重ねることはもうない。これが最初で最後のノミネートであり、オスカーの舞台なのだ。ちなみに死後の受賞となれば第81回のヒース・レジャー以来12年ぶり、この部門に限定して言えば第49回のピーター・フィンチ以来、44年ぶりだ。
それだけではない。作品賞候補作品以外からの受賞となれば第82回のジェフ・ブリッジス依頼11年ぶり、黒人俳優の受賞は第79回のフォレスト・ウィッテカー以来14年ぶりである。多くの映画ファン、特にMCU、『ブラックパンサー』ファンは彼の受賞を望んでいるだろう。何の因果か、助演男優賞最有力はその『ブラックパンサー』で共演したダニエル・カルーヤである。誰しもが彼らの受賞をみたいと思っているに違いない。
ではボウズマンを蹴落としてオスカーに輝く可能性が有るのは誰か。対抗馬として考えられるのはリズ・アーメド『サウンド・オブ・メタル』だろう。障害を抱えた役と言うのはオスカー好みだし、彼はパキスタン系の俳優。アカデミー賞が掲げる「多様性」に合致する俳優の一人だ。それに賞レース前半を牽引したのは実は彼だ。ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞も受賞している。作品にも勢いがあるし、ミラクルを起こす可能性は十分にある。
アンソニー・ホプキンス『ファーザー』はどうか。もちろん演技の評価で言えばボウズマンヤアーメドに負けない強さを持っているが、何と言っても彼は既に一度この部門を制しているというのが、今回は不利に働くだろう。もしホプキンスが賞レースでも圧倒的な強さを見せつけていたのであれば違ったのだろうが、実際はそうではなかった。既に一つオスカー像を持っているなら、今回は別の人にあげたいと思う会員も多いだろう。特にもう亡くなってしまったボウズマンがこの部門にいるならなおさらだ。
スティーヴン・ユァン『ミナリ』とゲイリー・オールドマン『Mank マンク』は今回はノーチャンス。ノミネートこそが勝利だ。特にオールドマンは3年前にこの部門を制している。この20年間を紐解いてみても、5年以内に主演男優賞を2回受賞したのはショーン・ペンとダニエル・デイ=ルイスの2人のみだ。今回のオールドマンではそれは無理だろう。ユァンは作品の力はあるものの、彼自身は前哨戦では多くがノミネートどまり。彼自身も今回受賞できるとは思っていないだろう。
オスカーの歴史に名を刻むのは一体誰か。しかし、多くの映画人、映画ファンが考えていることは同じだろう。ワカンダの王はオスカーの歴史にもその名を刻むことが出来るのか。封筒が開けられ、名前が読み上げられるその瞬間が、今から待ち遠しい。
受賞予想→チャドウィック・ボウズマン 『マ・レイニーのブラックボトム』
個人的希望→チャドウィック・ボウズマン 『マ・レイニーのブラックボトム』