若手・無名女優が受賞することもあれば、ベテランの女優が受賞することもある助演男優賞に比べると、助演男優賞はそういった傾向は薄い。この理由は後で述べるとして、ひとまず今年の5人の候補者を見てみよう。
サシャ・バロン・コーエン 『シカゴ7裁判』(初ノミネート)
ラキース・スタンフィールド 『Judas and the Black Messiah』(初ノミネート)
ダニエル・カルーヤ 『Judas and the Black Messiah』(3年ぶり2回目)
レスリー・オドム・ジュニア 『あの夜、マイアミで』(初ノミネート)
ポール・レイシー 『サウンド・オブ・メタル』(初ノミネート)
演技部門では唯一受賞経験者が一人もいないのがこの部門だ。それどころか、ダニエル・カルーヤ以外は全員が初ノミネートである。若い候補者もいるが、ここにいる全員がショウビジネスの世界で確かな実績を重ねてきたものたちだ。続いて過去5年間の受賞結果を見てみよう。
第92回:ブラッド・ピット 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
第91回:マハーシャラ・アリ 『グリーンブック』
第90回:サム・ロックウェル 『スリー・ビルボード』
第89回:マハーシャラ・アリ 『ムーンライト』
第88回:マーク・ライランス 『ブリッジ・オブ・スパイ』
過去5年の受賞者から分かることは全員がハリウッドで確かな実績を重ねてきた俳優であるという事だ。またここ4年間は受賞者の対象作は全て作品賞に候補入りしているというのも女優賞とは違う特徴だ。
最後に前哨戦で最も重要な組合賞の過去5年間の結果を見てみよう。
2019年:ブラッド・ピット 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
2018年:マハーシャラ・アリ 『グリーンブック』
2017年:サム・ロックウェル 『スリー・ビルボード』
2016年:マハーシャラ・アリ 『ムーンライト』
2015年:イドリス・エルバ 『ビースト・オブ・ノー・ネイション』
ここ4年間は組合賞とオスカーの受賞結果は一致している。そして今年、組合賞を含めた重要3賞を全てコンプリートしたのはダニエル・カルーヤ『Judas and the Black Messiah』だ。『ゲット・アウト』でブレイクし、その後は『ブラックパンサー』でMCU作品にも登場するなど、近年目覚ましい活躍を続けている彼の決定だとも言える作品だ。ブラックパンサー党のフレッド・ハンプトンを演じた。賞レース前半は後れを取ったものの、ゴールデン・グローブ賞受賞を境に一気に流れを引き寄せた。順当に行けば受賞当確なのは彼だ。
一つ懸念点があるとすれば同じ作品からラキース・スタンフィールドがノミネートしたことだろう。彼のノミネートはサプライズだったし、前哨戦にも全く出てこなかった。ブラックパンサー党に潜入する警察官役で、非常に見どころがある役だ。
もちろんダニエル・カルーヤに多くの票が集まるだろうが、当然ラキース・スタンフィールドの演技を支持したい人も一定数いる。そうなれば票割れが起きてしまう。とは言え、3年前に受賞したサム・ロックウェルも、同じ部門にウディ・ハレルソンがいたが受賞したことを考えると、考えすぎな気もするが。
賞レース前半戦をリードしたのはポール・レイシー『サウンド・オブ・メタル』だった。多くの映画ファンにとっては誰?って感じかもしれないし、実際に自分もそうだったが、この作品で多くの人の心を掴んだ。耳が聞こえなくなるドラマーを描いた映画で活躍した彼だが、実は彼自身もアメリカ手話が堪能だ。現状の立ち位置的には2番手と言った感じか。
サシャ・バロン・コーエン『シカゴ7裁判』とレスリー・オドム・ジュニア『あの夜、マイアミで』は今回は少し厳しいか。ただ、サシャ・バロン・コーエンの方は作品の勢いがあるのでチャンスは決して0ではない。彼は今年は『続・ボラット』と併せて評価されるだろう。ただ、彼自身が脚本部門でも候補入りをしていて、支持票がそちらに流れる可能性が有るのと、そもそも彼自身、かなり好みの分かれる俳優だ。そう考えると今回は厳しいだろう。
誰が受賞しても初受賞のこの部門。金のオスカー像を手にするのは一体誰なのか。気になるところだ。
受賞予想→ダニエル・カルーヤ 『Judas and the Black Messiah』
個人的希望→ダニエル・カルーヤ 『Judas and the Black Messiah』